真珠のピアス〜Tamaki〜
 6月の誕生石は、真珠。
 『19歳の誕生日にシルバー・リングをもらうと幸せになれる』なんて言い伝え(?)があるけれど、あたしは指輪じゃなくてもいいから真珠のアクセサリーがほしかった。
 
 6月生まれのあたしに、両親は真珠にちなんで珠希(たまき)という名前をつけた。そのせいか、真珠は自分にとって特別なもののような気がしていて、だから、19の誕生日に大好きな彼・圭ちゃんから真珠のピアスをもらった時にはすごくうれしくて、それまでピアスをしてなかったあたしはその日のうちに耳に穴を空けた。
 
 「ピアスをあけると、運命が変わるよ」
そうからかった友人がいた。
 だけど、喜びでいっぱいのあたしは、運命が変わるならきっと今以上に幸せになることだと、そう信じていた。
 しかし、皮肉にも友人の言葉は2年後に現実のものとなった、あたしにとって最悪の形で。 

 「ごめん。他に好きなひとができたんだ」
 
 その一言であたしたちの恋は終わった。しかも、別れるまでの2カ月間、彼は新しい彼女とあたしとふたまたかけてつきあってたという事実のおまけつきで。
 最後の日、あたしは泣きながら彼に、あの日もらったピアスの片方を投げつけた。

  「・・・それが原因なんだ、最近珠希が落ちこんでた理由と、その片耳のピアス」
 彼と別れて、数ヶ月たったある金曜の夜。
 あたしは短大時代からの友人、恵美と久しぶりに会ってあの頃よく通った店で飲んでいる。
 何を隠そう、あの時の『ピアス開けると運命変わる』発言の主は恵美だったのだが・・・。
「何か、あたしの言った通りになっちゃったわね」
水割りをすすって、苦笑いする恵美。ううん、と首を振ったその時ドアがからん、という音とともに開いて、一組のカップルが入ってきた。

 「ねえ、珠希、あれって・・・」
 恵美がこそり、と囁き、あたしが恵美の示すほうを見ると、そこにいたのは間違いなく彼と新しい彼女だった。
「わあ、素敵な店ね」なんて喜ぶ彼女の声に、あたしはわけもなく腹が立ってきた。
 この店は、あたしが先輩から教えてもらって、彼と何度も通った思い出のある店だ。そこに新しい彼女と来てほしくなかった。
 
 あたしは、ある決意を胸に、ピアスを外して立ち上がった。
「ちょっと、珠希!何するのよ」
恵美が青い顔をして止める。
「大丈夫よ、これを返すだけだから」
にっこり微笑んで恵美の前にピアスをかざす。
 彼はまだ、カウンターにいるあたしたちに気づいていない。

 「圭ちゃん」
 彼の後ろから呼びかける。振り向いた彼の笑顔は、あたしだとわかると青ざめた。
 「や・やあ久しぶり、珠希・・・」
 少し引きつった笑顔。一方、あたしを知らないであろう彼女は『誰?!この女』と言わんばかりの目であたしを見ている。 
 そんな中、あたしはこれ以上はない、ってくらい微笑んで一言。
 「彼女、かわいい人だね。・・・・これ、返すわ」
彼のグラスの上に手をかざす。

 ・・・瞬間、ピアスがあたしの手を離れて、琥珀色のグラスの中に沈んだ・・・。 

 無言のまま呆然とする二人にくるりと背を向けて、あたしは元いた席に戻り、何でもなかったように残っていたカクテルを飲み干し、たちあがる。
 なぜあんなことをしたのか、あんなことをしたかったのか、今となってはわからない。
 強いて言うなら、復讐・だったのかもしれない。
 傷つけてやりたかった。もちろん、目に見える傷をつけずに、二人の心に傷というか、とにかく嫌な気持ちが残るような。

 「ねえ、いいの?あれで・・・」
 店を出て、あたしと並んで歩きながら恵美があたしに聞いた。 
 なぜかあたしの心はすっきりした気持ちでいっぱいで、後悔とか未練みたいなものは一切なかった。
 ただ、夜風がピアスを外したばかりの右の耳にしみた。

 

 通りを行き交う車のライトの群れがなんとなく真珠の粒を思わせる、そんな夜だった・・・。
From Yuzuki
この物語は、松任谷由実サマの古の名曲『真珠のピアス』をモチーフに、ラジオ番組の1コーナー用に投稿するために書いたものです。
さすがに文章や表現のおかしい所は書き直してますが、これの原案を書いたのは確か18か19の頃で、採用してくれた番組の女性DJさんに、
「ずいぶんと大人っぽい話を書きますねえ」と番組内で紹介されたのを未だに覚えています。

さて、この物語は、友人の恵美視点バージョン「Crime of Love」がございます。
よろしければ、こちらも。
                 ⇒『Crime of Love』


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