Crime of Love〜Emi&KEITA〜
 「・・・彼女、かわいい人だね。・・・これ、返すわ」
 珠希のピアスが圭太のグラスに沈む。店の中に緊迫した空気が漂う。そんな中、
 「珠希・・・」
 『心配してる友達の顔』しながら、こころの中では「こいつ、なかなかやるじゃん」とつぶやいてる自分がいた。

 珠希がなんだかすっきりしたような顔で戻ってきて、残っていた酒を一気に飲み干し、店を出るそぶりを見せたのであわててそれに従う。
 会計を済ませて珠希が先に店を出た瞬間、あたしはとっさに後ろを振り返る。 
 あたしたちの事をずっと見ていたであろう圭太と連れの女の子と目が合う。
 あたしは珠希にわからないように二人に笑顔で合図を送った、感謝を込めて。

 「恵美と珠希って正反対なのにすっごい仲いいよねー」
 「ほんと、恵美はクールで、珠希はどっちかと言うと甘えんぼだしねー」
 まわりの人間はあたしと珠希のことをこう評した。
 特にあたしは中学生になるあたりから「恵美はクール」というキャッチフレーズ(?!)をいただいていた。 
 自分でも何かやっててもどこか冷めてるところがある、ってのは自覚していた。
 自分には、何か熱くなれるものなんてないと思ってた。
 ところが、それはあっさりと突然に現れた。・・・恋、と言うかたちで。
 あろうことか、相手は同じ会社に勤めてる珠希の彼、藤井圭太だったのだが・・・。
 
 『友達の彼だから』と身を引こうなんて殊勝な考えが起こらないほど、彼に惹かれてる自分がいた。
 どうしようもなく圭太が欲しかった。珠希と別れてくれないものかと本気で願っていた。
 幸いなことに、珠希は別の会社勤め。会社にいる間は、何の遠慮することなく彼に接近することができる。
 圭太も『彼女の友達』であるあたしを決して邪険には扱わなかったし、しまいには珠希とのことを相談する間柄にまでなっていた。 

 「俺さー、珠希と別れようと思ってんだ」
 まじめな顔で圭太が一言。
 ある夜・圭太の部屋で、突然彼が切り出す。 
 恒例となった同期・同僚の飲み会中、酔っ払ってどんちゃんしてるみんなをしり目にシリアスなあたしと圭太。 
 「あんたそれ本気で言ってるの?なんで?!」
ついにこの日が来た・・・内心にんまりしながらあたしは圭太に聞く。 
「いやあ、なんて言うかさ、一緒にいると疲れるんだなんとなく。・・・それに俺、好きな子できたから」
「嘘っ、だれっ?!」
なんとなく返事はわかっていたけど、身を乗り出して聞くあたしに彼は更にまじめな顔で一言。
「・・・おまえだよ」

 その夜を境に、圭太は「友達」から「恋人」に変わった。
  ただ、いつだって珠希の存在が気になっていた。かたちはどうあれ、友達の彼を取っちゃったあたし。このことが珠希に知れたら・・・それを考えてびくびくしていた。
 珠希との友情を失うのが怖いんじゃない。それは彼に恋したときにとっくに捨て去った気持ちだった。
 知られるのが嫌なのは、二人の関係が発覚したときに珠希がどういう行動に出るか予測がつかなかったし、万が一修羅場になんかなったりしたら面倒くさい・そう思ったから。
 圭太も同じような気持ちがあったのか、当分あたしと付き合っているのは秘密にしよう、という意見がまとまった。

  だから今夜の一件も、決して偶然なんかじゃない。
 珠希と会う話が出た時、珠希にあたしたちの関係が悟られないように誤解させてやろうと、あたしと圭太が打ち合わせして、さらにその話に乗った同僚の佐智子が協力してくれて、圭太の彼女役を演じてくれた。それを珠希が誤解してああいうことになったのだ。
 まさか珠希があんな行動に出るとは思わなかった。それだけが予想外だったけれど。

 数時間後。
 珠希を家まで送った後、あたしは圭太の部屋にいる。
  「ごめんね、圭太。いやな思いさせちゃって」
「いいよ。でもさ、俺と佐智子が一緒にいただけで珠希がああいう行動を取ったから、実は俺と恵美がつきあってる、って知ったらどうするだろうな、あいつ」
「さあね。でも圭太も悪党よね」
「それはおまえだろ?!珠希と平然と友達の顔して会ってるくせに。並の心臓じゃできない技だぜ」
いたずらっぽく笑う圭太。それ、皮肉のつもり?と苦笑いするあたし。
「でも、俺はそんな恵美にほれたんだけどさっ♪」
圭太があたしを抱きしめる。キスであたしの言葉と動きを封じる。
 
 珠希に二人のことがばれたら、どんな修羅場が待っているのかなんて、考えたくない。
 その日が永遠に来なければいい。だけどその一方で(口には出さないけど)圭太もあたしも紙一重の危なさを楽しんでるふしがある。

 同じ秘密を分け合う共犯者 。そんな圭太をあたしは愛してる。
 この恋を手離したくない。今まで生きてきた中でこんなに夢中になったのは初めてだ。
 自分にこんな感情がある、って事を気づかせてくれた圭太と離れたくない。

  「圭太・・・愛してる・・・」
  圭太のキスを全身に受けとめながらあたしはそうつぶやいた・・・。
  
From Yuzuki
いやあ、女って怖いよね(笑)。
自分で書いておいてなんですけど。
これを読んだ読者の方々の反応は大概
「恵美怖い」
「女の友情ってこんなもんよね」
「・・・でも、こっちの話の方が好き」・・・でした(笑)。

これは『真珠のピアス』を書いた2〜3年後に書いたものです。
当時所属していた詩のサークルで1回1話完結のショートストーリーの連載を持っていて、『真珠−』を載せた次の回用に書き下ろしたもの。
この連載、実に20回も続きまして、
隔月とはいえ、よく20も違う話をかけたもんだなあと、我ながら当時の創作意欲に感心しております。
読み返してみると、文章は今よりはるかにヘタクソですけどね(笑)。
このサイトに載っている『指定席』も、最初はこの連載用に書いたもので、
当時はこのサイトに載ってる部分で言うと『指定席@』の部分だけ書いて投稿したんですよねえ。

サークル自体はリーダーの不始末と編集放棄で自然消滅解散となったわけですが、
今に繋がる人脈を築けた場所でもあるし、自分の文章や詩のレベルを向上させてくれたことに関しては、サークルに入ってたことは無駄じゃなかったなと思えますね。


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