『愛しのハピイデイズ』C
 一年後。
 あたし達も高校3年生になり、いよいよ本格的に進路のことを考えないといけない時期がやってきた。 
「笹原、おまえの希望は短大の食物栄養学科だったな。今のままでも十分大丈夫だけど、おまえの場合理系がちょっと弱いからこれからはそっちに重点をおいて勉強しろ」
 あたしの小さい頃の夢は『料理を作る人になる』ことだった。ちょっとめざす道は違うけど、短大の食物栄養のほうに進んで調理師と栄養士の資格を取りたいと思ってる。
「・・・ありがとうございました」
ママと二人、おじぎをして教室を出る。
「あー三者面談も無事終わって良かった。ママね、美和子の進路に文句つける気はないから、自分のやりたいようにやるんだよ」
「うん、わかってる。ありがとママ。・・・じゃあたし寄るとこあるから。先に帰ってて」
「はいはい。あまり遅くならないうちに帰ってくるのよ。尚登くんによろしくねー♪」
すっかりばれてーら・・・・。帰って行くママの後ろ姿を見えなくなるまであたしは一人で真っ赤になりつつ見送った。

 「ごめんねー、待った?」
「いや、俺も今終わったとこ」
待ち合わせ場所の図書館につくと、尚登くんが読みかけの本をおいてにっこり笑う。 
「先生なんだって?」
「あのねぇ、やっぱり理数系をまじめにやれってさ。そーいう君はどーなの?」
「俺が実力的に無理な大学選ぶと思うか?バッチリ合格圏内だって」
 今日は二人とも三者面談だったので、終わったら待ち合わせしようと約束した。久しぶりに彼に会えるのでわくわくしていた。
「ところで、昼どうする?」
「そういうと思って・・・じゃじゃーん!」
「おおー!手作り弁当!いいの?」
「どーぞー。はい・これお茶ね」
 今でこそこんなあたしたちだけど、少なくとも半年前まではこんなんじゃなかった。
 亨は、あの一件の後瞳子ちゃんに告白した。瞳子ちゃんの返事は当然「NO」。
 3人のあいだが少しずつ気まずくなり始めたのもその頃から。
 あたしはあたしで亨のことを思い切れなくて苦しくて、ついに尚登くんにまだ亨のことをあきらめ切れないともらしてしまった。ののしられても、このままふたりの仲が消滅しても仕方のない状況だったのに、それでも彼は許してくれた。
 今のあたし達があるのも、彼のこころの広さがなきゃありえないことだった。

 
 「聞いた?とーこさん留学するんだって」
卒業間近になった2月、あたしたちはその話題で盛り上がった。
 瞳子ちゃんは、日本の大学に籍を置きつつ、1年生からイギリスの大学に2年間留学し、それからその大学の3年に編入することのできる外語大学を選んだ。
「英語をきっちり勉強したい、ってのもあったし、それに・・・まだつらいんだよね、瑶子姉ちゃんたちを見てるのが」
 身内以外に話すのは美和子がはじめてだ、と瞳子ちゃんは苦笑いしながらつぶやいた。

 亨は東京の大学に進む。
 あたしは地元に残る。
 いつまでも3人いっしょに歩いていけるとは思っていなかったけど、一方では3人ずっとこのままでいたいという気持ちを抱いていた。
  
 みんなそれぞれ自分の道を歩いていく。
 あたしたち3人だけじゃない、梢ちゃんも、楓ちゃんも、絵里ちゃんも、麻衣も、それぞれ自分のやりたい道を見つけてる。
 誰もが一度は通らなきゃいけない道。だけどこのままでいたい、学校という楽園の中でいつまでもみんなと笑っていたいと願うのはあたしが子供だからなのだろうか。こんなことを考えるのはあたしだけなんだろうか・・・。
 卒業が近づけば近づくほどこんな思いが強くなった。

 

 「卒業生代表答辞・総代・3年B組牧島瞳子」
 入学式の時に瞳子ちゃんと友達であることを誇りに思ったあたしは、ついに卒業を迎えた今日、同じ思いで瞳子ちゃんを見ている。
 だけどあの時と違うのは、もうこれが最後だと言うこと。毎日のように顔を合わせていたみんなともう会えなくなると言うこと。泣くつもりなんかないのに涙が出そうになる。
 
 「・・・この3年間、楽しく、そして有意義な日々を、時間をともに過ごした仲間達、私たちを導いてくださった先生方、今日のこの日を迎えるにあたり、18年間育ててくださった両親そして家族・・・私たちを見守ってくれた全ての方々に感謝します。
ここで学んだ、この伝統ある学び舎で培った『城山魂』を胸に私たちは新しい世界へ歩いてゆきます。
平成7年3月1日・第33期卒業生代表・3年B組牧島瞳子」

 それから2週間後。
 亨と瞳子ちゃんが旅立つ日がやってきた。
 免許を取ったばかりの尚登くんの運転で、あたしは空港に見送りに行った。
 瞳子ちゃんは手続きの都合上しばらくは大学のある東京に滞在する為に、同じく東京の大学に進学する亨と一緒に行く。・・・というよりも出発日をわざわざ同じ日にしたのは、ちゃんと3人で『お別れ』がしたかったのだということを、お互いに言いはしなかったがなんとなく分かっていた。

 「亨、東京まで瞳子ちゃんと二人きりだからって変なことするんじゃないわよ」
こんなに楽な気持ちで言えるのはまだ亨に恋してなかった12・3歳の頃以来じゃないだろうか。
「冗談じゃないわよ。そんなことしたらあたしたちの仲もこれまでだからね。わかってるんでしょうね、亨?」
きついけど笑いながらの言葉が瞳子ちゃんらしい。その言葉を受けて、亨がにやにやと笑いながら尚登くんに言う。
「それよりも、俺たちがいなくなったのをいいことにおまえらのほうこそ変なことすんなよ。空港(ここら)あたりってそういう建物多いし」  
「ばかやろー、俺がんな事するかよ」
反論する尚登くんの顔は真っ赤だ。ほどなく、アナウンスが搭乗手続きの最終案内を告げた。
「じゃあ、いくわねあたしたち。見送りはここまででいいよ」
「え、最後まで見送るよ」
あたしが言いかけたのを尚登くんが止める。瞳子ちゃんの目がうるんでいて、かなり強がってるのがわかったから。

 「じゃあね、美和子。それから桑原、美和子のこと頼んだわよ。あたしたちの大事な美和子のこと、あたしたちの代わりに見守っていて。泣かせたりしたら承知しないから。この子、こう見えても泣き虫で寂しがり屋なんだから」
「おまえのほうが泣きそうだよ、牧島。まかせろ、美和子のこと。絶対に泣かせない」
「絶対だからね!もしなんかあったらあんたぶっとばしにロンドンから駆けつけてやる」
 その瞬間、無情にも響き渡る呼び出しアナウンス。
『ただ今より十時発・東京行きの搭乗の最終案内を行ないます・・・・・・』
 
 「じゃあね!」
 二人がゲートの向こうに消えていく。
 二人が見えなくなった瞬間、あたしは目の前がかすんで思わず尚登くんの腕にしがみつく。
「あたし、笑えてた?二人のこと・ちゃんと見送れた?」
「大丈夫。俺が見る限り、いつも通りの美和子だった」
「はじめてなの、三人が離れ離れになるのって。いつも三人で歩いてきたの・・・あたしこれから大丈夫なのかなあ。一人でやっていけるのかなあ」
「大丈夫。俺が二人分がんばるから。・・・それにしても、俺は美和子達がすごくうらやましいよ。親戚でもなんでもないのに、実の兄弟みたいにつながりの強い3人だったもんな・・・。あ、あれじゃないのか?二人が乗ってる飛行機」
 尚登くんが空を指さす。あたしたちは大きな鳥のような飛行機が空を切り裂いて彼方に消えて行くまで見送った。

 永井亨・牧島瞳子・笹原美和子・・・そう、あたしたちは最強の3人だった。
 あたしにとって、親よりも兄弟よりも他の友達よりもこの二人が大切で、必要だった。
 こうして道は別れてしまうけど、いつだったか瞳子ちゃんが言った

 「白髪頭のじじい・ばばあになっても縁側で茶すする3人でいたいわよね」

 いつか、あたしたちはそんな3人を目指すのだ。

 

(第4話『愛しのハピイデイズ』 The end.)

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IntermissionC
 とうとう4話まで終了。折り返し地点ですな。
 4話まで発表したところで当時の所属サークルが活動縮小となったので、完全な形での公開は4話まで、5話から未発表作品となります。

 美和子に関しては「普通の女の子」が書きたかった。
 いや、もちろんみんな普通の女の子なんですが、なんと言うか・・・グループの中に必ずは一人はいるであろう、決してリーダーの器ではないけれど、いるだけでみんなに安らぎを与えてくれるような・・・ビジュアルイメージとしては小柄で、かわいらしくてボブカットで・・・いつでもにこにこしてて、決して目立たないけどいないとみんなが寂しがる・・・というようなそういう女の子を書きたかった。
 あの瞳子も普段は妹扱いしつつもその存在の重要さには一目置くような、そんなキャラクターで美和子を書きたかったんです。
 おそらくあのグループ内における精神的支柱は美和子なんだろうな、そう思いながら。

 さて、あまりにもどうでもいいこととは思いますが、6人が互いを呼ぶときの呼び方が微妙に違うのにお気づきでしょうか?

 梢、絵里、麻衣→瞳子を「さん」付けで呼ぶ以外は全員呼び捨て
 楓→「梢ちゃん、瞳子さん、美和ちゃん、絵里、麻衣」
 瞳子→全員呼び捨て
 美和子→全員「ちゃん」付け


名前の呼び方でグループ内のポジションが見えるようでおもしろくないですか?(わたしだけですかね・・・)
 それでは、次は絵里が主人公の5話です。
 どちらかというと重い話が続いたので、書いた当時の作者も嫌気がさしたのか?わりと明るい作風になってます。
 もちろん、梢と夏樹のエピソードもでてきますが、絵里がどんなとらえ方をするか、その違いをお楽しみください。


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