『GROWIN' UP』
  〜♪GROWIN’UP! GROWIN’UP!MY FRIEND
     GROWIN’UP! GROWIN’UP!MY DREAM
     輝きたい 夢を捨てないで     ♪〜

 「下手くそー!」
 すべての始まりはこの一言だった。
 忘れもしない、あれは中学3年の文化祭。クラスメイトにおがみたおされ、あたし・海藤絵里(かいとう・えり)は文化祭1回きりの即席バンドを組んで舞台にたったものの、こいつらと組むんじゃなかった・・・あたしは後悔しながらボーカルを務めていた。   
 ろくに練習しようとしないミーハー女どもの演奏がうまく行くはずがなく、あたしはとっとと終わらせて舞台を降りたい気持ちでいっぱいだった。ラストの曲も終わり、あたしたちが舞台を降りようとしたその時。
「下手くそー!ボーカルばっか目立ちやがって、バックはないほうが良かったんじゃないかー?」
 途端に起こる笑い声。悔しくて自分の席に戻る気になれず、あたしは体育館を出るとそのまま外へ飛び出した。

 「ち・・・っくしょー!」
 裏庭で、あたしは腹立ち紛れにそこら辺のものをけとばす。
 もっと練習すればもっとうまくできたはずだ。自分の歌い方はこんなのじゃないはずだ。後悔ばかりが先に立つ。
「ねえ、あんたさっきのボーカルの子だろ?」
突然後ろから声をかけられ、振り向くと。
「おーこわー・・・そんなに俺が言ったことが気に触った?」
そこにはさっきのやじ男がたっていた。    
「なあ、俺もバンドやってるんだけどさ、今ボーカル捜してんだー。俺たちと組まない?」
「・・・・・そんな急に言われても、あんたたちの演奏聞いたことないしね」
「少なくとも今日のあの連中よりはずぅーっとましだと思うぜ?ま、とりあえず俺たちの練習見に来てよ。土日ならここにいるからさ」
強引にあたしの手にメモを握らせて、そいつはその場から立ち去った。

 「ねーおねーちゃん、このメモ何?」
 妹の麻里があたしの制服のポケットからあのメモをとりだしてひらひらと振ってる。
「いーよ、それ捨てても」
「えーなんでー?男の子の名前が書いてあるよ。土曜に『Freedom』って書いてるけど待ち合わせかデートじゃないの?」
「欲しけりゃ、麻里にやるよ」
「えー?おねーちゃんに声かけたんだからおねーちゃんが行きなよー。あ・そうだ!それならあたしもついてく!いっぺん『Freedom』って行ってみたかったんだよねー。よし決めたっ!二人で行こーよ、おねーちゃん」
こう言うときの麻里は異常に決断が早い。あたしはもう逆らえないと思い、渋々うなずいた。
 
 土曜日・午後三時。あたしと麻里はライブハウス『Freedom』にいる。
「よく来たね。そこらへんに座って見ててよ」
 バンドのリーダーらしき人に声をかけられ、あたしたちはまだ誰もいない客席に座る。
 メンバーは男3人。ギター・ベース・キーボードが一人ずつの構成らしい。
「ねー、ドラムはいないんですかー?」
麻里が聞く。
「今の所いないんだ。シンセの打ち込みでドラムの音を出してる」
その言葉を聞いて、にやり。と麻里が笑う。
「あのー、ちょっとだけ叩かせてもらえませんか」    
この突拍子のない申し出に、みんな驚いたようだ。いくら麻里が吹奏楽部でドラムを叩いていいて、賞をもらったことがあるとはいえ、そりゃ無茶だ。
「・・・いいよ。これ、プログラミング用の楽譜で悪いんだけどちょっとたたいてみてくれる?」
 彼らが休憩に入り、その間にテーブルをスティックで叩いて練習する麻里。

 「・・・見に来てくれてありがとな。来てくれないんじゃないかって思ったよ」
あたしにメモを押しつけた彼が横に来て座る。
「妹って、ドラムできるの?」
「いちおーね。吹奏楽部でやってるし、賞ももらったこともあるけど・・・」
「すげぇな、まだ中2だろ?・・・そういう姉ちゃんのほうは?」
「あたしは・・・いちおー歌好きだけど、ちゃんと教えてもらったわけじゃないし・・・合唱部だけど、クラシックはなんか合わないなーって気がしてる」
「だよなー。あんたの声って、おとなしくみんなと合わせて歌うって感じじゃないもん。どーせならこの前みたいにボーカリストってのが合ってると思うけど。・・・良かったら、これ歌ってみない?そのために今日来てもらったんだし。今から妹と合わせてこの曲やるからさ、入れるところから歌ってみて」
いきなり歌詞を渡され、とまどうあたし。そうするうちに休憩が終わる
「・・・そしたら、まずドラムのほうでカウント入れてくれる?・・・そうそうそんな感じ。・・・よし、それじゃ行こうか!」
リーダーの合図。麻里がスティックでカウントを入れる。

  『♪Hey yo Girls カッコよく行かなきゃ Show Timeはこれから
    Hey yo You!男の顔色ばかりうかがってちゃ
    いかす女になれない (Hey everybody Comeon!)♪』

 ・・・なに、この感じ・・・。
 体の中から何か熱いものがこみあげてきて、身体中が、心が、歌いたいと叫んでいる。気がついたら、もう夢中で歌っていた。

 「・・・やるじゃん、二人とも!」
曲が終わった途端、メンバーが駆け寄ってきてあたしと麻里の背中をばんばん叩く。
「いやぁ、浩司がボーカル候補ですごくいい子がいるって言ってたからどんな子かって思ってたんだけど・・・ 想像以上に良かった!改めて、お願いするよ。二人ともこのバンドに参加してくれないかな?」

 (・・・どうする?)あたしはとなりにいる麻里に視線で問いかける。
「おねーちゃんが嫌だと言っても、あたしはやるよ」
麻里はまだ興奮がおさまらん、と言わんばかりの顔であたしに言った。あたしも、あんなにいい気持ちで歌ったのは初めてだった。この人たちとやりたい。心からそう思った。
「・・・よろしくお願いします」
「・・・そーこなくっちゃ!あ、自己紹介がまだだったな。俺は、いちおーリーダーで、ベース担当の嶋田貴弥(しまだたかや)。」
「僕は浅倉寿史(あさくらひさし)。キーボード担当。よろしくね。」
「俺は桑原浩司(くわはらこうじ)。ギターね。・・・やっぱり俺の目と耳に間違いはなかったろ?ボーカルはもちろん、腕のいいドラマーまで獲得できたんだからさぁ。感謝しろよ・俺に。」
「ばかやろー、最年少のくせに生意気な口聞くんじゃねー」
「今日から俺が最年少じゃねーだろー。麻里ちゃんがいるでしょーが、先輩方」
「しかし年齢層広いよなぁー。麻里ちゃん中2だっけ?ひょっとして俺と10歳近く違うわけ?」
リーダーが言い、大爆笑になる。
 なにしろ、自分ちの楽器屋勤務のリーダーが22歳、キーボードの浅倉さんが一つ下で大学3年・20歳、その下があたしをスカウト(?)した桑原さんで高校1年・16歳。その次があたしと麻里で15歳と14歳。
「まあ、絵里ちゃんと麻里ちゃんにしてみりゃーおじさんかもしれないけど、がんばろーね。」 
「嶋田さーん、『おじさん』はよしましょーよ。自分がすごいふけたように思える。せめて『おにーさん』にしましょうや」
さっきまで無口だった浅倉さんの一言にまたまた大爆笑。

 とても三十分前に初めて会った人たちとは思えないなごやかな雰囲気。
 こうしてあたしたちのバンド・「CINQ(サンク)」が誕生したのだった。
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