『愛しのハピイデイズ』
  〜♪愛しいOh!Happy Days. あの時間たちは両手に一杯の 宝の在りかを記した地図
    愛しいOh!Happy Days.  時々広げてそっと瞼閉じる 宝物はあなたたちの笑顔♪〜  
 

 気がつけば、いつも「3人」だった。
 幼なじみの宿命・って言われればそれまでだけどね。
 あたし・笹原美和子と永井亨、そして牧島瞳子。 
 5歳の時に瞳子ちゃんが引っ越してきてから、幼稚園・小学校・中学校そして高校まで3人一緒でここまで来た。
 いつも3人でいるのが普通になっていて、これから先も続いていくと思っていた、あの日まで。
 
 『新入生代表答辞・総代・1年A組牧島瞳子』
 「とーこさんて、つくづくすごい人なのね・・・」
 高校の入学式の日、なんと一番の成績で合格して新入生代表のあいさつをする瞳子ちゃんを見て、麻衣がしみじみとつぶやいた。あたしも誇らしい気持ちでそれを見ている。
 ふと、前のほうの男子の席を見ると亨が真剣な目で壇上の瞳子ちゃんを見つめている。それまではあくび交じりで校長や来賓の話を聞いていたというのに。
 
 進学校としての評判が結構高いこの城山高校に、絶対合格できないと先生方に変な太鼓判を押されていた亨が猛勉強の末合格したのは、変なところで負けず嫌いの性格と、瞳子ちゃんのため。
 合格発表の日、あたしは聞いてしまったのだ。奇跡の合格・と騒がれる中、ぽつりとつぶやいたのを。
「瞳子と同じところにいきたかったからな。・・・あいつと俺じゃ出来が相当ちがうけど、別々の高校に行けばそれで終わりだろ?いくら近所でもさ。少なくても後3年、高校迄でいいから一緒にいたかったんだ。・・・このこと、瞳子には言うなよ。おまえだから言うんだからな、美和子。」

 皮肉なことに、その時気づいたんだ。・・・悔しいけど、認めたくないけど、亨を好きってことに。
 本当は、前から気になってた。亨と瞳子ちゃんが一緒にいるとき、心の中が騒ぐのを。
 亨の、瞳子ちゃんに向ける視線が単なる幼なじみに対するものじゃないことを。
 でもこの気持ちが恋だなんて認めたくなかった。よりによって、相手が亨だなんて・・・。
 マンガやドラマの中に出てくるようなロマンティックな恋に憧れていただけに、なんだかショックだった。
  
 「ねぇ、みんな好きな人っている?」
 高校生になって、最初の夏休みがもうすぐやってくるというある日、珍しくみんなで一緒に帰れることになって寄り道した喫茶店で、急に梢ちゃんがこんなことを言い出した。  
「何を言い出すかと思えば・・・いるわよ」
瞳子ちゃんがあっさりと言い放つ。
「えー!?瞳子さん好きな人いるの?どんな人?教えてー!」
みんなもびっくりしたのだろう、目を輝かせて身を乗り出して瞳子ちゃんに詰め寄る。 
「人のこと聞いてどーするのよ。そういう梢、言いだしっぺはあんたでしょ?あんたこそどうなのよ」
瞳子ちゃんはこういうかわし方が実にうまくって、あたしはつくづく感心してしまう。
 それにしても・・・瞳子ちゃんの好きな人って一体誰だ・・・?まさか亨じゃないよね?
 それが気になって、大好きなチョコケーキにも、カフェオレにも手を出さずに梢ちゃんが好きな人の話をみんなに突っこまれながら話しているのも耳に入らずにずぅーっと考え込んでしまった。

 「美和子、あんた今日具合でも悪いの?あんなに好きなケーキにもあまぁーいカフェオレにも手を出さないし」
みんなと別れた帰り道、瞳子ちゃんが聞く。
「・・・ちょっと考え事してたから」
あいまいな笑顔を作りつつ、それでも頭の中はさっきから同じ話題がぐるぐると回ってる。 
「どーせさっきのことなんでしょ?あたしの好きな人が誰か、とか梢の相手はどんな奴だ、とか」
図星を指されてあたしはうなずくしかなかった。
「安心してよ。相手の名前は今は言えないけど、亨じゃないから・・・じゃあね」
家の中に入っていく瞳子ちゃんを見送りつつ、あたしはぼーぜんとしていた。
 
 ひょっとして、瞳子ちゃんはあたしの好きな人が亨だってことをもう気づいているのだろうか・・・?


 「・・・今、なんて言った?」
亨がつぶやく。その目は恐いくらい真剣で、いわなきゃよかった・・・あたしはそう思った。
 
 事の起こりはこうだった。
 試験前、亨があたしの授業のノートを借りに来て、コピーを取るために近所のコンビニへ二人で向かう途中、渡したノートをパラパラとめくりながら亨がつぶやいた。
「みわこー、おまえのノートって見づらいなぁ。瞳子のはもっとわかりやすいぞー。」
またか。あたしはむっとしながらそれでも何も言わずに歩いていた。
 
 何かというと亨という奴はあたしと瞳子ちゃんを比較するのだ。そして、たいがいけなされるのはあたしの方。 
 悔しいけど何も言い返せない。言われていることは事実だし、もっと悔しいことにあたしはそれでもこいつのことを好きなのだから。
 だけど、亨の心の中には瞳子ちゃんがいて、そこから瞳子ちゃんを追い出してあたしが入り込む余地も自信もあたしにはない。頭が良くて美人で、しかもすごく性格の良い人だ、瞳子ちゃんという人は。そんな瞳子ちゃんに勝てるものなんてあたしにはない。
 情けないけれど、あたしは瞳子ちゃんに相当コンプレックスを感じているのだ。

 「瞳子ってすげえよなー。テストも毎回毎回学年ベスト5だしさぁ」
いつもならあっさりと流してしまえるのだが、今日はそれがものすごくかちん、と来た。
「いいかげんにしてよ!そんなに瞳子ちゃんがいいならノートだって瞳子ちゃんに借りればいいじゃないの!そんなにほめるんなら直接瞳子ちゃんに言えばいいじゃない!
あたしの気持ちなんかお構いなしよね、あんたって。あたしが傷つかないとでも思ってるの?こんなふうに言われて。あたしには何を言っても許されるとでも思ってるわけ?
瞳子ちゃんのことが好きなら瞳子ちゃんに直接言いなさいよ!陰でこそこそしてないで。
でもどうせふられるだろうけどね。瞳子ちゃんには好きな人がいるんだから!」
 そこまで一気に言ったとき、あたしははっとした。・・・亨の顔からそれまでの笑顔が一瞬で消えたから。
「今言ったこと、本当なのか?瞳子に好きな奴がいるって」
詰め寄られてあたしはうなずくしかなかった。
「誰だよ?俺の知ってるやつか!?」
「知らないわよ。瞳子ちゃんも教えてくれないし」
「何で聞かないんだよ、友達だろ」
「友達だからって何でも知ってるとは限らないし、言いたくない事だってあるでしょ?じゃあ聞くけど、あんたあたしの友達だって言うけどあたしの好きな人知ってる?」
「そんなん、知らねーよ」
・・・そりゃそうだろうな・・・期待はしてなかったけど。
「でも俺じゃないことは確かだよな?」
「----------!!!」
「とにかく俺、瞳子に聞いてみるよ」
やめなさいよ、瞳子ちゃんに嫌われたいの?そういいかけた言葉をのみこむ。

 嫌ワレテシマエバイイ。悪魔のささやきに似た声がこころの中をよぎる。
 亨の中で、あたしはただの友達・幼なじみでしかないんだ。瞳子ちゃん以上の存在にはなれないんだ。
 ずっと前からわかっていたことだけど、改めて思い知らされたようでなんだか悲しかった。     
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