それからというもの、あたしと梢ちゃんの間に気まずい空気が流れ始め、他の4人とも前のようにしゃべれなくなり、わだかまりが解けないまま、あたしはグループから離れて同じ部活の子と行動するようになった。お弁当も、移動教室や体育の授業の時も・・・。
そして、進級して高校3年生になり、梢ちゃんとはクラスが離れてしまった。
テスト三昧の日々に追われ、それでも夏樹くんとのつきあいは続き、一緒の大学を受けようと決めて二人で勉強を続けた。
まだ梢ちゃんと夏樹君がつきあっている頃、あたしたち3人はこう言い合ったものだ。
「3人で同じ大学行けたらいいね。夏樹は法学部、あたしと楓は文学部の英文と国文学科でさ。そいで4年間も楽しく過ごすの!」
梢ちゃんとすれ違いになった今、もうあの頃の楽しいときは戻ってこない・・・。それだけがやけに悲しかった。
2月。
卒業試験も無事終わり、大学も決まり。後は卒業式まで週1回登校すれば良くなり、あたしは自動車学校に通っている。
「・・・楓もここだったんだね」
その声に振り向くと、絵里が立っていた。
3年のクラス替えであたしは美和ちゃんと一緒のクラスだったのだが、絵里・麻衣・瞳子さん・梢ちゃんが別のクラスで一緒になった。この4人と顔を会わせる機会がなくて、ずいぶん久しぶりのような気がした。
しばらくおしゃべりをした後、あ・そうだとつぶやいて絵里は小さなファイルをバッグから取り出す。
「これ、美和子に渡しといて。・・・それで、これが楓の分。」
渡されたのはサイン帳のリフィル。デザイン違いで3枚ある。
「この花がらが麻衣、モノトーンのは瞳子さん、で、この地図の絵のがあたしの。」
「・・・あたしも、書いていいの?」
「なに言ってんの?当たり前じゃない。あんなことがあったからあまりしゃべれなくなったけど、あんたは今でもあたしたちの大事な友達だよ?」
涙が出そうになった。・・・でも、絵里たちはそう言ってくれても、梢ちゃんはあたしのことをまだ許してくれないだろう。
「梢ちゃん・・・大学どこに行くって?」
あたしは絵里に聞いてみる。
「光南大を受けたんだけど、どうやら本命じゃないみたいだよ。本命はどこか、あたしたちも知らないんだ」
絵里から聞いた校名はあたしたちのとは違う大学だった。
あの頃の約束はやっぱり叶わないのだろうか。あたし・梢ちゃん・夏樹君の3人で同じ大学に通うこと。
そのとき、次の教習開始を告げるチャイムが鳴り、次は、学科の授業だから。そう言って立ち上がった絵里を呼び止める。
「これ、書いてくれる?」
あたしは自分のサイン帳を渡す。
「・・・いいよ。瞳子さんと麻衣にも渡しとくよ。・・・もちろん、梢にも」
「・・・卒業証書・森本楓。昭和51年9月13日生まれ・右のもの本校普通科の課程を終了したことを証す・平成7年3月1日・県立城山高等学校校長宮原昇・第5233号!」
今日は卒業式。そして最後のホームルーム。
式で学級委員長の夏樹君が代表で受け取った卒業証書を担任が生徒一人一人に手渡し、出席番号ラストのあたしが受け取ると教室中拍手が沸き起こる。
「かえでー!急いで部室に行くよ!みんな待ってるから」
卒業の感動の余韻にひたる間もなく、あたしたちの部では『卒業生追い出しコンパ』が行なわれるので大急ぎで教室を出た・・・が、部室に行ってみて、先に出たはずの夏樹君がいないのに気づき、あたしは捜しに外に出た。
部室近くの西校舎の裏に夏樹くんを見つけ、声を掛けようとしたが、できなかった。夏樹くんと向かい合うように、梢ちゃんがそこに立っていたからだ。
「ごめんね。急に呼び出して。・・・あのね、あたしお願いがあるの。」
何だい?と首を傾げる夏樹君に梢ちゃんは一言。
「夏樹のタイピンが、ほしいの」
城山高校では、卒業の時にカップルになった二人、または好きな人に男の子は校章入りのネクタイピン、女の子は制服のスカーフ止めのリングをあげる、という『制服の第二ボタン』に似たニュアンスを含む習慣が存在する。・・・そのタイピンをくれ、と梢ちゃんは言っているのだ。戸惑う夏樹くんに、梢ちゃんは一言、
「・・・冗談よ。タイピンは楓のためにとっておくのよね。・・・だから、あたしにはネームをちょうだい。」
いいよ。そう言ってネームを外す夏樹君。
「ありがとう!大切にするね。・・・この3年間、いろんなことがあったけど、あたし夏樹に会えて、短かったけど、夏樹の彼女になれてうれしかった。・・・大学は違うけど、これからもよろしくね。それから、楓のこと、絶対泣かしちゃだめよ。別れるって言うなら、あんな嫌な思いしてカップルになった意味ないからね。あんないい子他にいないんだから、絶対に離しちゃだめよ!」
「いわれなくてもそうするよ!」
夏樹君の言葉に顔を見合わせ笑う二人。
元恋人同士だけあって、『ただの友達』とは違った空気が二人を包んでいる。・・・結局、声はかけられずに、あたしは部室へと引き返した。
そして、結局梢ちゃんとはあの日以来話すことなく、梢ちゃんの進路もわからず、何となく消化不良の気持ちを抱えたまま、あたしの高校生活は幕を閉じた・・・。