『卒 業』 A
 「梢ちゃん・・・今、なんて言ったの?」
 「だから・・・今日はあたしと夏樹の最後のデート」
明るく言ったつもりでも、涙をこらえてるのがありありと見える梢ちゃん。
 テスト明けの日曜日。梢ちゃんに呼び出されて遊園地に行くと、そこには夏樹君がいて、そして、梢ちゃんはあたしたちに向かってこういったのだ。
「・・・気づいてたよ。夏樹の気持ちも、楓の思いも。だけど、二人とも遠慮しあって本心を打ち明けようとしないんだもん。二人の優しさにこれ以上甘えてられない。そうなると、あたしが退くしかないじゃない、夏樹があたしを見てないとわかった以上は!」  
 
 あたしは心が痛かった。『見つめているだけでいい』なんてただの自己満足にしか過ぎない。あたしたちがそういう感情を持っていたことで、梢ちゃんを傷つけていたのだ。そして、梢ちゃんにとって最悪の結末になってしまった・・・。 
 だけど、梢ちゃんは最後まで笑っていた。『邪魔者は消えるか』と背中を向けて歩き出すまで・・・。
 去っていく梢ちゃんの姿を目で追いながら、あたしは涙が止まらなかった。梢ちゃんへの申し訳ない、という思いとこれからどうなるのかと言う不安で。そんなあたしを抱き寄せて夏樹君は言った。
「泣くなよ、楓。もし、梢や他のみんなが楓を敵に回しても、僕が守るから。今回のことはみんな僕が悪いんだ。梢と付き合っているのに楓を好きになってしまったのだから。・・・何があっても、どんなことがあっても最後まで楓のことを守るから」
 
 「・・・楓、ちょっと」
 翌日の放課後。部活が休みなのをいいことにさっさと帰ろうかな・・・と思っていたところに、絵里に呼び止められた。
 実を言うと、今日は学校に行きたくなかった。梢ちゃんと顔を会わせづらかったからだ。朝、むかえに来た夏樹君と二人で登校して、非難の嵐を覚悟して教室のドアを開ける・・・と。  
「―おはよっ!」
梢ちゃんが笑顔であいさつするので面食らってしまう。昨日のことが嘘のような、晴れ晴れとした笑顔。
 そうするうちに午前中の授業も終わり、ランチタイム。いつもはさっさとみんなの机を並べてるあたしなのに今日はためらってしまう。そこへ、梢ちゃんが声をかける。
 「なにやってんの、楓!早くおいでよ」
こうしてみんなで食べ始めたのだが、事情を知ってるせいかみんな口をつぐんでしまい、梢ちゃんの声だけが響きわたる・・・。 

 そして、放課後。 
 教室を出る。校舎と校舎をつなぐ渡り廊下。そこには瞳子さんが待っていた。
「・・・・・・どういうことなの?おとといまで梢の彼だと思ってた富田氏が今日は楓と一緒に登校してきて。当の梢は変に明るいし・・・。」
「あたしにだって分からないよ。昨日急に呼び出されて・・・梢ちゃん、いつから気づいてたんだろう・・・あたしが夏樹君のことを好きだってこと・・・きっと、あたしの思いが梢ちゃんを苦しめていたんだよね・・・」
あたしの言葉に、瞳子さん、ため息ついて一言。
 「梢はね、楓が思ってるよりもずっと前から気づいてると思う。・・・実はね、あたし相談受けてたのよ。夏樹が自分といても全然楽しそうじゃない、あたしが夏樹に甘えているから彼はあたしのこと嫌いになったのかな・・・って。他に好きな子がいるのかもね・・・とも言っていたわ。あの梢が泣きながらあたしに相談したのよ、あれは相当悩んだんじゃないかな」
瞳子さんの言葉は淡々としているけど、その一言一言が心に突き刺さって、あたしは何も言い返せなかった。
そんな中、向こうから麻衣がものすごい勢いで走ってくるのが見えた。
「瞳子さん、大変!梢が倒れた!」

 保健室に駆けつけると、梢ちゃんはベッドに横たわっていた。
 瞳子さん、絵里、美和ちゃん、麻衣、そしてあたしが見守る中、数分後に梢ちゃんは目を覚ました。
 「みんな・・・ごめんね、迷惑かけて」
なに言ってんのよ、と美和ちゃんが声をかける。梢ちゃんがあたりを見回す。そして、あたしと目が合った瞬間、視線をそらし、低くつぶやいた。
 
 「ごめん・・・楓、ここから出ていってくれない?・・・自分から言い出したくせにこんなこと・・・って思うかも知れないけど。ごめん。笑って楓と夏樹のこと祝福するつもりだったけどそう簡単には行かないわ。・・・自分勝手なのはわかってる。でもどうしようもないの・・・!当分、あたしに声をかけないで。今は楓の顔を見たくない・・・。」    
 
 何かで頭を殴られたようなショックがあたしを襲う。
 ふらふらと保健室を出る。ドアを閉めた瞬間、梢ちゃんの泣き声が聞こえたけれど、その声を背にあたしは一気に教室まで走る。ドアを開けると、夏樹君が待っていた。
 「梢、どうだった?・・・楓と一緒に帰ろうと思って待ってたんだ」
 彼の顔を見た瞬間、張りつめた糸が切れて、涙があふれ出す。

 「どうしよう夏樹君・・・あたし、梢ちゃんの心に取り返しようのない傷を付けちゃった・・・!」
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