〜♪卒業できない恋もある 街も人も流れて行く
卒業できない恋もある 1秒ごとに好きになるのに
どうして君はずっと手を振るのでしょう♪〜
春の駅。
桜の花が一面に降り注ぐ駅のホームに、梢ちゃんが一人で立っている。悲しそうな、今にも泣きそうな顔であたしをじっと見つめている。
どうしたの、いまあたしもそっちにいくから・・・
だけど、走っても走っても梢ちゃんのところにはたどり着けなくて、梢ちゃんがどんどん遠ざかっていく。
やがて、あたりに響き渡る発車のベル。振り向きもせず電車に乗る梢ちゃん。
まってよ、どうして?どうして何も言わずに行っちゃう訳?どこに行くの?
待ってよ梢ちゃん、こずえちゃーん・・・・
がば、とはねおきる。
最近、いつもこの夢ばかりみてる。それで梢ちゃん、と叫んだ自分の声で目がさめるのだ。
♪ぱるるるる・・・・・・・・ 電話の音がする。
「電話よ、楓。梢ちゃんから」
いつのまにか樹(いつき)おねーちゃんが部屋に入ってきていた。
「うん・・・」
ねぼけ眼で電話をとる。
「あ、かえで?楓、今日ひま?」
電話の向こうから梢ちゃんの元気な声が飛び込んでくる。ひまだけど。そう答えるあたしに遊園地行かない?と言う。
一瞬、嫌な予感がよぎる。夏樹くんと3人で行くなんて言い出すんじゃなかろうか。でも一緒じゃないとわかってほっとしつつ、十二時に待ち合わせをして電話を切った。
朝ごはんを食べようと、下のキッチンに下りていくと先にテーブルについていた紅葉(くれは)おねーちゃんがあたしを見て一言。
「あんた、梢となんかあったんじゃないの?」
別に何もないよ、と言うと
「だって、最近あんた変よ。毎朝『こずえちゃーん』だもん。そりゃもー悲しそーな声で」
別に何もないもん、と横を向く。ふと時計を見るとすでに十時を過ぎていて、あたしはあわてて部屋に駆け上がり、出かける支度をして家を出る。
外は夏らしいぴーかんの青空。
思えばこれが、すべての始まりだったのだ・・・。
なぜか、女の子の友達がいなかったあたし・森本楓にとって、相川梢は初めて親友と呼べる女の子だった。
中学の後半からふとしたことが原因でクラスの女子を敵に回してしまい、中3の一年間はほとんど一人だった。
みんなに仲間外れにされ、あることないこと噂を立てられて、学校にも行きたくなかったし、死のうかとも思った。
そして、人を信用できなくなった。最悪な中学時代・同級生たちから逃げるように、あたしは自宅から遠く離れた城山高校を受けて、合格した。
あたしのことを、過去にあったことを何も知らない人たちばかりのこの学校で一からやり直そうと思ったのだ。
「もりもとさーん!一緒にお弁当食べよーよ!」
入学式の翌日、高校に入って初めてのランチ・タイム。
何もかもやり直そう、そして友達を作ろう・・・と決意して高校生活に突入したものの、知らない人ばかりの1ーAの教室であたしはとまどってしまった。お弁当の時間になると同じ中学の子同士でグループを作ってしまうからだ。仕方がないから一人で裏庭ででもお弁当を食べようかな・・・・・・そう思って席を立ちかけたとき一人の女の子が声をかけた。その声のほうにふりむくと、窓際にいるグループの中の一人があたしに向かって、笑顔でおいで・おいでのポーズをしている。
背の高い、ショートカットの女の子。ひとなつっこそうなくるくると動く瞳が印象的だった。
話をするうちに、仲良くなるごとに人間不信は消え、あの時声をかけてくれたグループのみんなは大切な友達になった。
ロック大好きで、中学の頃からバンド活動をしてる絵里、こと海藤絵里(かいとうえり)。
お菓子づくりが趣味で、いつも差し入れしてくれる美和ちゃん、こと笹原美和子(ささはらみわこ)。
うちの学年の主席入学の優等生の瞳子さん、こと牧島瞳子(まきしまとうこ)。
同い年とは思えない、おしゃれで大人っぽい雰囲気の麻衣、こと谷村麻衣(たにむらまい)。
そしてこの性格や個性のまったく異なる4人をまとめるのが梢ちゃんだった。
お互いになんでも相談しあう、6人の間に秘密はない、一人の悩みはみんなの悩み・・・・・・それがあたしたちの約束事で、実際、あの日まで他の5人に対して隠し事はなかった。
そう、「彼」に対する気持ちに気づくあの日まで・・・。
「かーえでっ♪一緒に帰ろう」
部活を終えて音楽室を出ると、梢ちゃんがにこにこして立っていた。
「もう、一緒に帰りたいのは私じゃないでしょ?」
苦笑いするあたしにばれた?とばかりに舌をちょろっと出して笑う梢ちゃん。そのとき、
「あれ、相川さん今日も森本さん待ってたの?仲がいいんだね」
あたしの後ろにいた富田くんの声を聞いた瞬間、梢ちゃんの表情が今まで以上にまぶしい笑顔に変わる。ああ、本当に彼が好きなんだなあ、と思えてなんだか微笑ましい。
「富田くんもう帰るの?」
梢ちゃんが聞く。
「いや、ちょっと寄り道して帰ろうかなって思ってる」
「じゃあ、駅までは一緒に行こうよ!いいでしょ?楓も」
梢ちゃんの好きな人が、同じ吹奏楽部の富田夏樹くんだと知ったのは1年生の夏休みが終わった頃だった。
それから梢ちゃんに頼み込まれて彼のデータとか調べるうちに、それまでは挨拶程度だった彼と話をするようになって、今じゃ私まで富田くん通になれるほど彼の事を知っているくらいだ。
中学時代、友達にまで裏切られ、冷たくされたことのあるあたしにとっては、こうやって梢ちゃんが頼りにしてくれること、梢ちゃんの力になれることがうれしくて、こういうことがぜんぜん苦にならなかった。
最初は、純粋にそれだけだった。本当に3人で友達としていられるひと時がすごく幸せだった。
・・・それなのに。
それがいつ、あたしの中で富田君への気持ちが友情から恋に変わっていったのだろう・・・。
「・・・ねえ、もし自分の彼が友達のこと好きだとしたらどうする?」
「・・・なにそれ?」
昼休み。みんなでお弁当を食べて美和ちゃん手作りのデザートでしめるいつもの昼休み、思いがけない瞳子さんの言葉に目をぱちくりするみんな。
「なに?とーこさんって三角関係に悩んでるわけ?」
そんな梢ちゃんの言葉をちがうわよ、とクールに否定して瞳子さんは話を続ける。
「今度の文芸部の作品のテーマが『女の友情』なの。・・・だけどあたしはそんな経験ないからねえ。だから彼氏持ちの梢と麻衣に聞こうと思ったの。」
麻衣には社会人の彼がいて、梢ちゃんは夏樹くんに告白して彼と付き合っている。
「じゃああたしたちは問題外って訳ね。」
絵里がふくれる。
「まあまあ。じゃあ絵里たちにはこうしようかな。もし友達の彼に片思いしてて、その彼も自分のこと好きだと言ってくれたらどうする?友情をとって彼とはつきあわない?それとも、友達なくしても恋の成就をとる?・・・どう思う?楓。」
その言葉にどきっとした。ひょっとしたら、瞳子さんはあたしの夏樹君に対する気持ちを知ってるんじゃないだろうか・・・そう思って。
あたりさわりのない言葉でその場をかわしたけれど、それ以来あたしはずっと考えている。あたしと夏樹君は同じ部で、梢ちゃんは夏樹君の彼女。いつのまにか、3人でいることが多くなった。あたしは梢ちゃんという彼女がいるのに夏樹君を諦められない。もし、万が一夏樹君とあたしが両思いだったら、そのときはきっと梢ちゃんとは友達じゃいられなくなることを痛いほどわかっていた。それだけ梢ちゃんは彼のことを一途に思っているから。それに梢ちゃんを失ってまで夏樹君と恋人同士になりたいとは思わない。いや、なれるなんて思ってないけれど。
夏樹くんと梢ちゃんとあたし―3人のバランスが好きだ。これを壊してしまうくらいなら・・・自分の思いを殺してしまう方がいい。たとえ恋人にはなれなくても友達として見つめていられるのならそれでいい。
夏樹くんのことが好き。泣きたいぐらい好きだ。いつも彼のそばにいられる梢ちゃんになりたいとずっと思っていた。でも、そんな思いをひっくり返すぐらい梢ちゃんのことも大切だったのだ、あたしにとっては。
いつまでもこのままでいられたらいい、この居心地のいい空気の中にいたい。これからも、ずっと、ずっと・・・。
だけど、その願いもあの日、壊れてしまった。・・・恋の成就と引き換えに。