「たーにーむーらーっ」
体育祭が終わり、次は文化祭の方へみんなの気持ちが向かいつつある10月のある日。
妙ににこにこした藤崎が近寄ってくると、『企画書』と書かれた紙をあたしの机の上に置く。
「・・・・・『学内有志によるファッションショー』。で、これが何か?」
「俺と谷村もメイクスタッフで協力する事になったから、よろしくなっ」
なにーっ!?
「何でそんな事勝手に決めるのよ!」
「だって俺一人じゃ無理だし。谷村以上に腕のいいやつなんて他に知らないし。」
やけににこにこしてすりよってきたのは、こういうわけか・・・あたしは思わず頭を抱える。
「それにほら、俺達だけじゃなくて、牧島や相川たちもスタッフに入ってるし」
企画書のスタッフ名簿に目をやると・・・確かに。たのもしき仲間達が名を連ねている。
『ポスター作成・・・相川梢(3−B) 写真部・美術部』
『企画・構成・・・ 市原愛子(3−C) 藤崎千尋(3−B) 牧島瞳子(3−B) 手芸部3年生』
『音楽・・・富田夏樹(3-D) 海藤絵里(3−B) 森本楓(3−D) 軽音部・吹奏楽部』
『メイク・フィッティング 藤崎千尋(3−B) 谷村麻衣(3−B) 笹原美和子(3−D) 手芸部1・2年生』
進学校なのに、自由な校風の城山高校。
全員が必ず部活動をするきまりになっていて、一定の条件を満たせば新しい部や同好会が作れるから、この学校にはいろんな部活がある。
藤崎の話によると、手芸部の部長が文化祭にファッションショーをしたいと実行委員会にもちかけて、その話に乗った実行委員でもある藤崎・とーこさんと手芸部長の市原さんを中心に各部に協力を要請して、このメンバー集結となったらしい。
「手芸部、ってゆーとなんか古臭く聞こえるけどさ、作ってるもんはすげーぜ。これ見てみろよ。」
企画書にくっついていた作品のポラを見ると、和も洋もいろんな服が、しかも結構素敵なデザインのものが並んでいた、自分でも着てみたいと思うくらいのものが。
「手芸部の面子って、将来服飾関係に進みたいやつが揃ってんだって。結構レベル高いだろ?・・・・なあ、面白そうだと思わない?」
「・・・まあ、ね」
「よっしゃ!きまりだな!!がんばろーぜーっ」
まるで子供のように喜ぶ藤崎。
「ちょっと!まだスタッフやるなんて言ってないわよ!!」
そう叫びつつも、こういうイベント大好きなあたしは、もうすでにやる気満々だったのだけど。
「・・・ふーん、有志によるファッションショー・ねえ。面白そうじゃない」
仕事が終わって戻ってきた由衣姉に、企画書を見せつつ、協力を頼む。さすがに素人じゃこなしきれないので、由衣姉か誰かに協力を頼めないか、と藤崎が言い出したからだ。
「いいよ、当日あたしも休みだし。でもやっぱ城山って必ず学年に1人はこういう面白いの出すやつがいるよね、進学校なのに、堅物のがり勉ってあんまりいないよねぇ。」
OGである由衣姉が現役の時も、文化祭や体育祭はかなり盛り上がったらしい。
「それにしても麻衣、あんたいよいよやる気になったんだ。絶対この仕事やらないっていってたじゃない。親父が聞いたら喜ぶよ〜」
由衣姉がニヤニヤしながら言う。
「それとこれとは話が別!第一今回だって藤崎ってやつが勝手に決めちゃったんだから」
「どっちにしたってやる気になったってことでしょ?あんた素質はあるんだからやっぱりこっちの方へ進めばいいのに・・・ま、それはともかく、お手伝いさせてもらうわ」
やっぱりそういう目で見られてしまうんだなあ・・・・
由衣姉が自分の部屋に引っ込んでから、あたしは小さくため息をついた。親も当然美容師になって店に入ってくれるもの、と思ってるしなあ。
なんだかんだ言っても、将来OLとかしてる自分が想像できなかったりするんだよねえ・・・。
ファッションショーへ向けて、スタッフミーティングが始まった。
みんなクラスや部の出し物の準備と併行しながらの参加だから、どうしてもこっちに割く時間は少なくなる。それでもやる気と実力のある面子が揃ってるから、驚くほどスムーズに準備が進んでいた。
そんなある日、何回目かのミーティングの時。横に座っている絵里が周りを見回しながら、こそ、っとメモを回してきた。
「今日のミーティング終了後、牧島、笹原以外は視聴覚室に集合。
別メニューのミーティングを行う。ただし、牧島には今日のことを知られないように」
「別メニュー」?藤崎の字で書かれたそのメモの内容に首を傾げるあたし。
よく見ると下に回覧順番があって、藤崎から始まって、梢、富田、楓、絵里、あたしと他の3年生スタッフ全員を経て最後は市原さんまで回るように名前が書いてある。だけどそこに美和子と瞳子さんの名前だけがない。
主要スタッフのうちこの二人だけ抜かすってどういうこと?なんだかよく分からないまま、あたしはそのメモを隣に渡した。
1時間後。
被服実習室でのミーティングが終わり、美和子と瞳子さんが帰ったのを見て、あたし達は視聴覚室に集合した。
「悪いな、また集まってもらって」
藤崎が集まったメンバーに告げる。
「実は、牧島には内緒なんだが、ショーの最後にもう1シーン用意してあるんだ。市原、説明してくれ」
市原さんの説明によると、ファッションショーのラストはウエディングドレスなのだが、3年生が作った2パターンのドレスのデザインがどちらともよくて、それならいっそ2着とも出してしまえということになったらしい。
で、瞳子さんにどちらか一着着せたいらしい。
「今回の件では瞳子にはすごく助けてもらったからね。それにこのデザインが見た時に浮かんだのよ、瞳子がこれを着てる画(え)が」
市原さんが見せてくれた、瞳子さんに着せたいというドレスのデザインはシンプルだけどすごく洗練された、だけど瞳子さんのように背が高くてスレンダーな人じゃないと着れないような感じだった。
「確かに瞳子さんならこれ似あうと思うけど、相手役誰にするの?確か瞳子さんって身長が170近くあるよ」
梢がそんな質問をぶつける。
「あら、いるわよ。これ以上ないほどの適任者が」
そういって市原さんが指差した先には・・・・・ガラスの向こうの視聴覚準備室の主・本並先生が、いた。
「下手に他人と組ませるよりは、義理とはいえ兄妹なんだから瞳子も余計な気を使わなくていいんじゃない?」
確かに本並先生は身長が180ぐらいはありそうだし、何せ男前だし(笑)。スレンダーな知的美人の瞳子さんと並べば見映えがする。
本番で瞳子さんは怪我してモデルができなくなった子の代理でステージに立つことになっている。だけどこのドレスのことは当日まで内緒ということになった。
今日ここにいない美和子には事前に説明がしてあって、計画が瞳子さんに漏れないようにするために、かつ瞳子さんに怪しまれないように、この件のミーティングにはいっさい参加しないという。そこまで徹底して考えた藤崎と市原さんに、思わず感心せずに入られなかった。
「あぁ?俺がモデルだと!?」
ミーティング終了後、交渉役に任命されたあたしと絵里は隣の準備室に本並先生を訪ねた。
「そりゃ一着ならやってもかまわんが・・・・・・相手役は誰だよ?可愛い子か??」
「そりゃーもう。だって瞳子さんだもん。なんか文句あります??」
「そっか、瞳子か。そんならいいよ。」
最初嫌そうな顔をした本並先生も、瞳子さんの名前を出したらあっさりとOKした。
「お前らも面白い事やるよなあ。でもクラスの準備のほうもきっちり頼むぜ」
あたしと絵里にコーヒーを差し出しながら本並先生は言う。と、そのとき何かの拍子に机の端のほうにつんであった書類やテキストが崩れてそこらへんに散らばり、慌てて3人がかりで拾い集める。・・・と、その中に混じっていた一通の封筒を拾い上げ、絵里が素っ頓狂な声を上げる。
「これって・・・・・ラブレター??」
まあな、と苦笑いする先生。そして、急に思いついたように聞いた。
「そういやお前らに聞いてみたかったんだけど。俺の世代ってお前達にとって恋愛対象になりうるの?」
「そりゃ、なりますよ。みんながみんなそうじゃないかも知れないけど。少なくとも先生ぐらいかっこよければ7歳差ぐらいどーってことないでしょ?あたしの前の彼氏も先生と同じぐらいだし」
なぜ本並先生がいきなりそんなことを聞いたのか、その真意を知る事になるまで何年もかかったのだけど。