『彼女の彼』 B
 3時。  
 ふたりと別れ、家に帰ると、姉・桂(かつら)がいた。
「あれ、もう帰ってきたの?今日は夏樹くんとデートじゃなかったっけ?」
今日、別れたの。そういうと、姉貴は急に真顔になった。
「夏樹くんに、そう言われたの?」
その問いに首を振り、自分から言ったの・と答えて、今日の出来事を話して聞かせた。
「馬鹿じゃないの、あんたって!黙っていればまだ一緒にいられたかもしれないじゃない!」
そうかもしれない。いや、夏樹のことだ、よっぽどの事がない限り、自分からは言い出さないだろう。楓だって、『友達の彼』をとってまで自分の想いを通す、なんてことはしないだろう。

 ふたりの想いが、あたしにはとても重かった。
 三人のバランスを保つのがつらかった。
 夏樹との恋を終わらせたくなかったし、楓との友情を壊す勇気さえもあたしにはなかった。それでも、言わずにはいられなかった。
 姉に話しているうちに、いつのまにか、あたしは声をあげて泣いていた。これで本当によかったのだろうか?そんな思いばかりが頭の中をぐるぐる回る。後悔してないなんて、嘘になるから絶対いえない。
 夏樹と友達に戻る決心をしたつもりでいたけど、明日学校で会ったときに素直に笑えるだろうか。楓に今まで通り接することができるだろうか。
 そんな不安なきもちが胸に詰まって、いつまでも涙が止まらなかった・・・。
 
 「おはよー!」翌日・月曜日。
 昨夜は、ほとんど眠れなかった。
 それなのに、学校に着くと不思議なくらいいつものようにしていられる自分がいた。
「今日は富田氏と一緒じゃないんだね。どーしたの?」
クラスメイトが聞く。
「うん、あのね・・・」
答えようとしたとき、別のクラスメイトたちが騒ぎ出した。
「こずえー!あたし昨日見ちゃったのよ、遊園地で富田と楓が一緒にいるのを。どーなってるの、あんたたち」
 あたしは素直に答えた。
 あたしと夏樹が別れて、楓と夏樹がつきあうことになったことを。

 がらり。
 教室のドアが開いて夏樹と楓が入ってきて、一気にみんなの冷やかしの的になる。
 そんな中、あたしは二人に向かって言った。
 にっこり笑って、明るい声で。




 「・・・・・・おはよっ!」 

『彼女の彼』 The end. 

Intermission@
 まずは1話終了です。
 次から楓が主人公の第2話に進むわけですが、物語の時期が1話の続き・高2の夏から始まり、そこから高校卒業の日まで一気に飛びます。・・・・・・と言うのもこの7つの物語、話の順番(発表した順番)とその話の時期設定の順番がばらばらなんですね。

 時期設定を書き出してみると。
 1話は高2の夏。
 2話は入学時のエピソードから高2の夏を経て、卒業まで。
 3話は幼少時のエピソードがあるものの、基本的には高2の夏。
 4話は高2の夏、高3の夏、高校卒業後の春休み。
 5話は中学生から高2の夏まで。
 6話は高2の冬、高3の秋、卒業式前後、そして7話につながる、7年後。
 7話は高校卒業から7年後の平成14年。

 6人が物語の中で置かれている状況はそれぞれ違うものの、第1話・梢と夏樹が別れたエピソードはそれぞれの話の中で登場します。
彼女たちがこの件についてのそれぞれの思いを語ると言うわけです。
 1話を最初に書いたとき(原作は14年前、サークル加入以前に書いたノート10Pほどの短編)、まさかここまで長い話になるとは予想だにしませんでした。
梢と楓以外の4人は構想すらしていなかったし。
(1話での梢と瞳子の会話は、今回発表するにあたって追加したもの)

それでは、これからも引き続き物語をお楽しみください。

⇒第2話 『卒業』 へ   ⇒『彼女の彼』 index


templates by A Moveable Feast