「…それでは、久々の再会に、かんぱーい!!」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
歓声と、にぎやかに響くグラスの触れ合う音。
あたしと梢がたまたま同じ時期に帰省していたから、本当に久々に高校時代の仲良し6人組がそろった。
卒業してから何度か集まる機会があったのに、必ず誰かが何らかの事情で参加できなくて、たとえば成人式のときはあたしが留学中で、美和子の結婚式のときは梢が帰って来れなくて。
2年前に同窓会があったときは、あたしは姉のことがあってこういう場に出るのを控えていたし、美和子は子供産んだばかりだった…とか。…とにかく、こうやって全員で酒を飲むなんて初めてのことなのだ。
東京で、有名カメラマンのアシスタントとしてカメラマン修行中の梢。
母校・城山高校で国語科の講師兼「図書館のおねーさん」になった楓。
昼はOL、夜はライブハウスで歌い、夢を追いかけつづける絵里。
高校時代にはあれほど嫌がっていた美容師になり、実家の店から新しい店舗を出す為の準備に追われる麻衣。
このメンバーでは唯一の既婚者、主婦業と幼稚園の栄養士、2足のわらじをはきこなす美和子。
高校を卒業してから7年、みんながそれぞれのやり方で『今』を生きている。
だからみんなの笑顔が、輝いているように見える。もちろん、ここに来るまでいろんな挫折や苦しい思いを重ねてきただろうが、それを乗り越えてつかみとった『今』だから、胸をはってまっすぐ前を見て生きていけるのだろう。
女の子の集まりでは恒例の「恋の話」に話題が移ったときのこと。
驚いたのが、あたしと梢以外は高校時代に付き合っていた相手と未だに続いていると言うことだった。
高校で出会った桑原尚登と結婚まで行きついた美和子はもちろん、絵里はバンド仲間だった桑原浩司先輩(=美和子の旦那のお兄さん)と、楓は同級生の富田夏樹と。
…まあこの3組はずっと地元に残っているからまだわかるが、麻衣の場合、うちの学年のリーダー的存在だった藤崎千尋と高校卒業と同時に付き合い始めたものの、彼はつい最近まで神戸にいて、その間ずっと遠距離恋愛を続けていたと言うのだからたいしたものだと思った。
高校卒業してから7年たつというのに、ここまでくるのに紆余曲折あったにしろ、一人の相手と繋がっている彼女たちの絆の強さが、ただただうらやましかった。
「とーこさんは?今彼氏とかいるの?」
絵里や梢の興味津々な視線。
「いやーいないわー。1年前に別れてからずっとご無沙汰だーねー」
…これは本当。東京で暮らしていて、自分で言うのもなんだが彼氏のひとりや二人、出来なかったわけじゃない。でも、結局はその相手と義兄を比べてしまい、長続きしない恋愛を繰り返す自分がいた。
どうして恋愛に関しては、こんなに狭い目線でしか見ることが出来ないのだろうか、とっくに人のものになった相手を、心のどこかでずっと引きずっているのか。
「そーいえばさー。本並先生元気?」
なにげなく梢の口から義兄の名前が出てきたのでびく、っとする。
「・・・んー、元気なんじゃない?」
何気ない返事をしつつも、その名前を聞いただけで心が騒ぐ。・・・こりゃあ重症だわ。
一次会で美和子と楓が抜け、後の4人は改めて飲みなおそうと、麻衣の案内で次の店に向かう。
程よくアルコールが入り、あたしたちはさらに饒舌になって、カウンターの向こうのバーテンさんたちも巻き込んでしゃべり倒していると。
「おまえら、ぴーぴーぎゃーぎゃーしゃべりやがって、小学生かっ」
後ろから聞き慣れた声・・・振り返ると、他のテーブルで飲んでいたらしく、ほろ酔い加減の義兄がそこにいた。
「やっだー!本並アニキおひさしぶぅりー!!」
かなり酒の入った梢が、彼をあたしたちの席に引っ張り込む。
「おまえなー、仮にも恩師に向かってアニキたぁーなにごとだっ、せんせーと呼べせんせーと!!」
「もう学校卒業してんだから、いいじゃん、時効時効!!」
「あほか、師弟関係に時効などあってたまるか!!ちったー年長者を敬え!」
「やーいおっさーん!今日は飲みすぎなんじゃないのー?いくら夏休みだからって、飲みすぎて腰立たなくなっても知らないから!!」
…かなり酒が入っているせいか、梢も絵里も麻衣も悪ノリしているようだ。
ああ、こういう場面になると、(というか相手が義兄だと)いつもの「毒舌瞳子ちゃん」ぶりが発揮できない。隣に座っているだけなのになんでこんなに緊張するんだか・・・。
「あー今夜は楽しかった!!アニキー、また帰ってきたときも一緒に飲もうねぇ〜!」
「おー!今度はしらふのときから呼んでくれや」
結局閉店まで延々飲み続けたあたしたち。途中で麻衣を迎えにきた藤崎まで乱入してプチ同窓会のようになり、店の前で解散したとき、義兄はかなり出来上がっていた。
「ちょっと、おにーさん大丈夫なの?」
「おぅ、へーきだよへーき!とりあえずタクシー呼んでくれや」
千鳥足でへにゃへにゃになってる義兄をこのまま一人で帰すのはかなり心配で、やっとつかまったタクシーに同乗して義兄のマンションへ向かう。
「ハイ、家ついたわよー。おにーさん鍵開けてよ」
彼を支えるようにしてようやく帰り着いた義兄の家。
あかりをつけて彼を寝室に連れて行き、とりあえず水でも飲まそうと冷蔵庫にあったミネラルウォーターを彼に渡し、ようやく一息つけたあたしは部屋の中を見渡す。
・・・ここに来るのは、何年ぶりだろう。
二人が結婚してからずっと暮らしている部屋。二人の幸せそうな姿を見たくなくて、ここに来ることはほとんど無かった。
姉がいなくなってからもう3年たつのに、この部屋にはまだ姉の面影が、ここで生きていた証がちらほらと見える。
姉の写真、姉が選んだとおぼしき家具や調度品。…そんな、姉に関するものを見ているだけで、なんだか息苦しくなってくる。
義兄はまだ、姉の選んだ品々に囲まれて生活している、まだ姉に縛られてる、そんな気配を感じられるだけに。
「おにーさん、大丈夫ね?・・・じゃあ、あたし帰るから」
ベッドでうとうとしている義兄に毛布をかけ、耳元でそっと声をかけてたち上がろうとした時。
「…瞳子。」
眠っているとばかり思っていた義兄が、あたしの手をつかんで自分のほうに引き寄せた。
「…ここに、いてくれ。」
身体を起こした彼が、あたしを抱きしめる。
「今夜だけ…ここにいてくれ。どこにも行くな、瞳子」
彼の指があたしの髪に触れ、身体の線をなぞる。
何度も何度もキスをして、そのたびに彼の身体の熱があたしに伝わって…
「瞳子…」
掠れた声で彼があたしの名を呼ぶたびに、今まで彼に対して抑えつけていた気持ちがどんどん溢れ出してきて、もう理性とかモラルとか、そう言うブレーキが効かなくなってきて…。
あたしを抱く彼の肩越しに、笑顔の姉の写真が見える。
そんなことはありえないのにじっとこちらを見られている感覚を覚えるのは、彼と一線を超えてしまったと言うことにたいするわずかばかりの後ろめたさ、だろう。
でも、そんな気持ちは、彼に抱かれているというずっと抱えてきた願望が現実に変わった嬉しさにあっという間にかき消されてしまった…。