01 // 屋上の指定席

 放課後、カメラ片手にまずは音楽室を覗くのが毎日の日課。
 彼はトロンボーン担当だからあの楽器は結構目立つ。
 でもそこに彼はいなくて、音楽室のあちらこちらに目をやると、フルートパートの所に楓がいるので今度はそっちにアピールしてみる。いつものことなので楓はすぐに気づき、首を横に振って室内にはいないサインを送ってくれた。
 じゃあ、あそこだ…あたしは迷わずに屋上目指して階段を駆け上がる。

 屋上に通じる扉を開けると、校庭(した)から聞こえる他の部の掛け声にかき消されるようにかすかに聞こえてくる音。
 消音器をつけたトロンボーンから放たれるくぐもったメロディ。いつもと同じように、夏樹がそこで練習していた。
 あたしは気づかれないように、彼のいる位置から死角になる場所で、カメラを構える。
 いつもの屋上の指定席で練習している彼なのに、レンズの向こうの景色は、いつもどこか違って見えた。
 それは空の色だったり、彼の向いてる方向の角度だったり表情だったり、時にはトロンボーンでなく、譜面か何かにペンを走らせているしぐさだったりでぜんぜん飽きないから、何回シャッターを切っても、何本フィルムを費やしても足りないくらいだ。

 やがて秘密練習を終えた彼はそこを立ち去る。その後は何食わぬ顔で部活に参加するのだろう。
 教室で見せる穏やかで物静かな印象の彼からは想像もつかない、屋上での日課。
 多分他の誰も知らない、ましてやこうしてあたしに見られてることなど思いもしないであろう彼の違う一面に、あたしはその度にどきどきし、そしてますます彼の事を好きになっていくのだ。

 あの頃はまだ夏樹に告白する勇気なんかなくて、レンズ越しでしか彼を凝視できなくて、その先に起こることなんて全然考えられなかった、高1の夏。
 あれからたった1年しかたってないのに、あたしと夏樹と楓の間にはいろいろありすぎた。
 夏樹は楓を選び、あたしは身を引き、あたしの手元には大量の彼を記録したネガが残った。

 「なぁ、相川。おまえそのネガどーすんの?」
文化祭展示用の写真選びの為に現像室にこもっていたら、部長が話しかけてきた。
 部長はあたしが写真部に入った動機も、被写体のほとんどが夏樹であることも、そしてあたしと夏樹がどうなったのかも、全て知っている。
「どーしよっかなー、って思いまして。」
文化祭に展示する数点の写真ですら、あたしは決めかねていた。なぜなら、夏樹と別れた今年の夏まで、あたしの写真のほとんどは夏樹が写っていて、それを校内の誰もが目にする文化祭の場で展示するのをためらっていたのだ。

 「文化祭には元彼(あいつ)が見るかもしれないから出しづらいだろうけどさ。フォトコンには出してもいいんじゃないか?俺が言うのもなんだけど、おまえの想いがいっぱいつまってるからだろうな、このまま葬り去るには惜しいんだよなあ」
「あたしのも、フォトコンに出してもいいんですか!?」
以前はあれほど動機が不純だ、ヘタクソだなんだとけなされていたあたしの写真。部長の意外な申し出に思わず聞き返さずにはいられなかった。
「だって、あいつのこんな表情撮れるの、おまえぐらいだろ?…人当たりのいい優等生君が絶対普段は見せないような顔をさ」
現像したばかりの写真をひょい、っとつまんであたしに差し出す部長。
 そこには、確かに教室では見られない、ほんの一ミリだって笑顔を見せない、ただ一心不乱にトロンボーンを吹く夏樹の姿。

 「こういう顔を逃さず撮れるだけでも、おまえの眼は確かだと思うぜ?…腕はまだまだだけどな」
褒めてんのかけなしてんのかわからないけど、そういって部長はにやり、と笑った…。
       
            ★お題一発目はやはり梢だろ、ってことで。
             本体でもここでも書いてますが、梢が写真部に入った理由はずばり、
             「部活動ならカメラ構えてても(被写体は夏樹onlyだったとしても)さほど怪しまれないだろ」(笑)。
             あまりにも動機が不純すぎるので、写真部長はしょっちゅう梢をからかって遊んでたという裏設定(笑)。
             ちなみに、この『部長』引退後の次期部長は梢という更なる裏設定(爆)。