Anniversary
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 「メリークリスマス、真貴。それと、短大合格おめでとう」
 1997年のクリスマスイブ。あたし・山本真貴は、生まれて初めて恋人と呼べる人とのクリスマスを過ごしている。

 1年前の12月24日は、中学の同級生と一緒にいた。
 中学卒業して初めての同窓会の日、あたしは元担任の坂井和臣氏に告白した。絶対に無理だ、失恋だとあきらめかけていた今年のお正月、なんとOKの返事をもらった。
 そして今日は告白してちょうど1年目のクリスマス・イブ。高校3年生のあたしは地元の短大の推薦入試を受けて、3日前に合格通知をもらった。

 そして、あたしたちは今日、久しぶりに二人きりになれた。 
 ものすごく待ち遠しかった、あたしたちの1年目の記念日。今日を目標にがんばってきた、ふたりの記念日。
 あたしの受験が終わるまで彼とは会わないことに決めていた。・・・そうせざるを得ない事情があったから。
                      
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 「真貴ちゃん!坂井先生!二人でどこかおでかけ?・・・あなたたち、どうして一緒にいるの?」
 きつい口調とは裏腹の、まるで狙った獲物を捕えたときのような、うすら笑いを浮かべた彼女の表情を見たとき、あたしは終わりだな、そう思った。

 夏休みに、二人がデートしているところをこの辺で一番うるさいと評判のPTA役員のおばさんに見られてしまい、噂は小さい町にすぐ広まってしまった。
 あたしは親に外出禁止令を出されて、その日から半分監視されているような日々が始まった。
 彼はもっと大変で、毎日学校やPTAに呼び出され、教師をくびになる寸前まで行ったという。
 だけど、彼はあたしとつきあい始めたときから覚悟していたことだから、と言って、口やかましい学校側やうちの親と繰り返し話し合った。
 結局、うちの親があたしの進路が決まるまで会わないという条件を出して、二人ともおとがめなしと言うことになったのだけど、あたしは悔しさと、彼に申し訳ないという気持ちで、あふれる涙を止めることができなかった。
 あの時、あたしが告白さえしなければ、こんなことにならなかったんだ。あたしが未成年だから、先生が悪者になっちゃうんだ、世の中に8歳差のカップルはたくさんいるのに。あたしがもう少し大人なら、こんなことは言われなくてすむんだ。どうして教師と生徒が恋愛したら、周りはあんなに白い目で見るんだろう。そう言って泣くあたしに、先生は静かに首を振った。
「もしばれるのを恐れていたら、いくら真貴が好きでもOKはしなかった」と。 

 それから約4か月の間。
 それまでは毎週のように休日に会っていたのに、約束通りデートどころか電話すらしなくなったあたし達。
 いつのまにか欲張りになっていたあたしの恋心は、会えなくて寂しいと騒ぎ出した。だけど、その声を無視して勉強した。
 どうしても耐えられなくなったときは、学校の帰りにまわり道をして、中学校に行った。
 フェンスの外から弓道場で弓を引く先生の姿を、あたしが彼を好きになるきっかけになったそのりりしい横顔を見ていた、彼に恋していた中学生の頃のように。それで少しは落ち着くことができるから。

 12月。
 あたしは無事大学に合格した。
 しぶしぶながらも親の許しももらい、やっと堂々と会えるときが来たのだとうれしかった。
 そして今日、12月24日。
 あたしたちの恋が始まった一年目の記念日に、4か月ぶりのデートを楽しんでいる。

 「真貴、家まで送るよ」
 食事のあと、その辺を少し散歩しながら先生が言った。
 「うれしいけど、うちの親に見つかったら何言われるかわからないからいいよ」
そんなあたしの言葉に、彼は首を横に振った。 
 「陰でこそこそ、っていうの俺嫌いなんだ。真貴さえよければ、来年のクリスマスも、再来年のクリスマスも真貴と一緒にいたいから。今は認めてもらえなくても、きっとお父さん達にもわかってもらえる日が来る。それに俺は、悪口を言われても平気だよ。真貴が好きだから。」 
 なぜなんだろう。この人がこういうとなぜか安心できる。この人についていこう、って気になる。 
「本当に、あたしが彼女でいいの?今回のように、また先生に迷惑かけることがあるかもしれないよ、それでもずっと先生のそばにいていいの?」  
「当たり前だ。俺は真貴さえよければ、と言っただろう?今の俺には真貴じゃないとだめなんだ。これからも、ずっと俺のそばにいてくれよ」
「先生・・・」
あたしがつぶやくと、彼は苦笑いした。 
「今さら『先生』もないだろ・・・名前で呼べない?」
「だって、そんなすぐには呼べないよ」  
「物事には何でも最初がある!ほれ、呼んでみな」
いたずらっぽい瞳で誘う。

 どうしても言えない、恥ずかしい・・・・・・と照れるあたしに、言えないならここにおいて帰るぞ!と笑いながらも軽く脅しをかける彼。

「和臣・・・さん?」
どうにかこうにか言ったものの、何だか照れくさくて暗闇の中でもわかるくらい顔が赤くなってる。

 「・・・かわいいよ、真貴」
 彼があたしを引き寄せる。痛いくらいに抱きしめる。離れたくなくてしばらくそのままでいた。やがて、どちらからともなく自然に唇を重ねていた。 
 どこからか教会の鐘の音がかすかに聞こえてきて、あたしにはそれがふたりのことを祝福してくれてるような気がしてならなかった・・・。   

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 「和臣さん!ごめんねー!仕事がなかなか片づかなくてー」
息を切らしながらかけよるあたしを、彼が笑顔で迎えてくれる。
「年末のOLは大変だなぁ。ご苦労さん。無理してくることなかったんだぞ?俺は明日から冬休みに入るし、いつでも時間作れるんだから」   
「そー言うわけには行かないわよ!和臣さんとあたしの大事な記念日なんだから」
まだ呼吸が整わずぜーぜー言いながらしゃべるあたしに、柔らかい微笑みを浮かべながら彼はしみじみとつぶやいた。
「・・・あの頃は照れくさがっていえなかったのになぁ。いつのまにか自然に呼べるようになったな」
「何のこと?」
彼の言いたいことがわからずに、きょとんとするあたし。と、その時。

 「あれー、先生デート?その人彼女?」
どこからついてきていたのか、ひょっこりと現れた彼の教え子らしき男の子たちが口々にはやしたてる。
「おまえらこそこんな時間に何やってんだよ?子供はさっさと家に帰れ!」
彼の言葉に子供たちは笑いながら一目散に駆けて行く。その姿を見ながらあたしはぽつりとつぶやく。
「・・・もう、あたしたちが並んでも違和感なくなってきたんだね。きっともう、教師と教え子がって言われる事ないんだね」
「そうだなあ。誰かさんも大人になったことですし。それに、昔はあんなに照れくさがって俺の名前呼んでくれなかったのに」
「・・・あー、そういえばいつのまにか『先生』って呼ばなくなったねえ。なんでかな」

 1996年のクリスマスイブに、ふたりの恋愛が始まった。
 当時25歳だった先生の『彼女』になれた17歳の時のあたしはまだまだ子供で、彼に追いつきたくて、彼にふさわしいひとになりたくて、必死で背伸びをしてたような気がする。 
 そして5年後・2001年のクリスマスイブ。
 いろんなことがあったけど、壊れることなく、あたしと彼は今年もふたりの記念日を一緒に迎えることができた。
 もう背伸びは必要ない。一緒に並んで歩いていても気後れするようなことはなく、ごく自然に、あたりまえのように彼に寄り添うことができるようになったから。22歳の今のままの、ありのままのあたしを受けとめてくれるひとがそばにいてくれるから。彼があたしをここまで成長させてくれた。もちろん、両親のものとは別の意味の「愛情」で。

 「いよいよ今年は『独身最後のクリスマス』かぁ・・・長かったな、ここまでくるのに」
時間が立つたびに冷え込んで行く街。白い息を吐きながら、彼が感慨深げにつぶやく。
「ごめんね、30になるまで待たせちゃって」
そう言うあたしに苦笑いする彼。
「『30になるまで待たせてごめん』なんて、普通は男が言う言葉じゃないか?」
「でも、あたしが待たせたのは事実でしょ?よく待っててくれました、って感じだよ。社会人経験もしたい、なんていうあたしのわがまま通させてくれて本当にありがとう、和臣さん。……来年の今頃には、とっくに 『坂井』真貴なんだよね」
あたしの薬指には、彼からもらった指輪が、街を彩るイルミネーションの光を反射して輝いている。

 「相手が真貴だから、待てたんだよ。教師になったときに、友達に生徒と恋愛すんなよ・ってからかわれて絶対そんなことないって否定しまくったけど、結局真貴とこーいうことになっちゃったなあ」
「後悔してるの?」
「そんなわけないだろ!後悔してたら、ここまで待たないって。真貴こそ、俺でいいのか?俺みたいな年の離れた男で」
「・・・和臣さん、怒るよ?今更年の差持ち出すなんてずるいよ。年齢で人を好きになるわけじゃないんだから」
「そりゃこんなことも言いたくなるさ。真貴のまわりには俺よりも若くてかっこいい奴がいっぱいいるのに、ってさ。」
「それを言うなら、あたしもそのせりふ言わせてもらうわ。和臣さんのまわりにはあたしより大人できれいで素敵な人がたくさんいたはずよ。でもどうしてあたしなのよ?」
そう言った瞬間、和臣さんがあたしを抱きしめる。優しく、でもしっかりと、あたしを包み込むように抱きしめてくれる。
「・・・ごめん。もう言わないよ。俺たちがこうして5年も一緒にいるんだから、そんなの関係ないよな?年の差持ち出すなんて、どうかしてたよ。でもさ、どこかで不安もあったんだ。いつか真貴が誰かにさらわれてしまうんじゃないかって、そればっかり気にしてしまうんだ」
「・・・誰のおかげで、ここまでこれたと思ってるの?もっと自信持ってよ。和臣さんがあたしをこんなにしてくれたんだからね。」

 彼の腕に、力がこもる。高すぎず低すぎず、あたしをすっぽりと包み込んでくれる彼の腕の中にいるときが、一番幸せだ。彼の広い胸におでこをこつん、と寄せてささやく。
「・・・好きよ、和臣さん。絶対に離さないでね。いつまでも和臣さんのそばにいさせて。・・・あたしを世界一幸せにしてね」
「・・・まかせとけ」

 クリスマスイブに始まったあたしたちの恋。
 くじけそうになったり、すれ違ったこともあったけど、6回目の記念日からは、愛する彼の苗字を名乗り、そしていずれは新しい家族とこの日を迎えることになるのだろう。
 どんなに忘れようと思っても、絶対に忘れようのない特別な日。できることならこの先も、いずれおじいちゃんおばあちゃんになっても、彼とあたしの『ふたりの記念日』を迎えようと思う。

 いつまでも・・・ずっとふたりで・・・。

『Anniversary』 【終】 

From Yuzuki
 ぐわー(あまりの甘々さに悶えているらしい)

 サイト再編集ってことで、改めてこの物語を読み返してみたけれど、
あまりにも甘いわ、くさい台詞の応酬だわで…多分今書き直したらこんなにはならないと思うけどあえて書き直さない(笑)
 これ最初に書いたの1997年?98年??
 サークルに投稿するために2001年のシーン(ラストのOLマキと三十路サカイのエピソード)を付け加えて、さらにサイトに載せるために校正したはずだから、2002年か2003年に最後に手を加えたのか・・・
 3~4年でも文章って変わるもんだなあとしみじみ思いますです。

 以下、執筆当時のあとがきです。

 クリスマス間近、ってことで鹿児島の某サークルにいたときに書いた小説を原案にリライトしてみました。
 なーんか、久々にこんな甘々な小説を書いたような気がする。 
 私も一応女のはしくれですので、現実の厳しさ・特に恋愛に関しては、なかなかこんなに都合よくハッピ−エンドになるはずはない、ってのは嫌っちゅ−ほど理解してるつもりです。
 だけど、だからこそせめて小説の中だけでも幸せな気分になりたい、それくらいは許されるでしょ−!ってな気持ちで今回の物語を書きました。そこらへんをふまえて読んで頂ければ幸いです。


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